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そして誰もいなくなった

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■暑い夏は犬にはこたえるようだ。犬のポンちゃん、夏に入って以来、しばしば痛々しそうに鳴くようになった。
■犬の好きな妻。子どもの頃飼った犬の思い出から、我が家で犬のファミリーを持つのが夢だった。92年9月にティナが五匹の子供を産んだときの妻の喜びよう。一挙ににぎやかになり、子どもたちが孫を作れば、大家族になると思ったものだ。
■妻は、三匹を仲の良い、犬好きの友人たちに譲った。
■ポンちゃんが我が家に戻ったのは、95年8月のことだった。フランスに出張するM夫妻から預かることにした。出戻りだが、帰国後もそのまま我が家に居残ることになる。
■ある日、家族で食べるパンが丸ごと無くなった。犯人捜しから、この子がパンに目がないことがばれる。あの事件がつい先日のことのよう。
■妻はティナを看取った経験から、そろそろ危ない時期とわかるらしい。声をかけたら、Mさんが駆けつける。
■Mさんの腕の中で、次第に息が荒くなる。かと思うと、すやすやとただ寝ているだけの様に見えることがある。まるで死と格闘しているかのよう。
■その直前いきなり脱糞したのはティナと同じだという。安らかな死に顔。開いたままの目を閉じてあげる。舌が垂れるので、口にそっと押し込む。
■翌日、墓地に送るまで、氷で冷やし花で飾る。もう鳴き声は聞こえない。


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