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読書日誌 - 最新エントリー

人間万事塞翁が馬を地でいった男

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2009-6-22 7:34
 身長一五〇センチ、体重四七キロの小さな体を手編みのセーターと背広で包み、磨きたての靴をはいた六〇才の男が就職の難関を突破できる有力候補ではありえないのを、ジミーは自覚していた。とりあえず黒の靴墨で白髪を隠して就職を申し込んだ。
 まもなく仕事にありついて、あの大きくしなやかな手を手持ち式削岩機の柄を握り、市内のコンクリート舗装をほじくることとなった。
 どの馬がレースで勝つかという難問を解くのがそれまでの人生で唯一の仕事だったリディも手袋工場に就職した。彼女の唯一の不満の種は、靴墨を塗ったジミーの頭髪で夫婦のベッドの枕が汚れることだった。
 ロシアでは、昼は競馬場での巧みな騎乗ぶりで「黒いマエストロ」と呼ばれ、毎晩催される社交舞踏会の中心的存在だった、ジミー。人種差別からアメリカを出て、ロシアでの成功、やがて革命を逃れ、フランスに移りそこでも才覚を現し、またしてもナチの台頭から脱出し、そして生まれた国アメリカと、運命に翻弄されかくも波瀾万丈な人生を送った男も珍しい。

「黒人ダービー騎手の栄光」、ジョー・ドレイプ著、真野明裕訳、アスペクト出版
 病院に着いたときには、ルイスはすでに息を引き取っていた。ルイスと最後に語り合ったホテルでの一日を、私は昨日のことのように思い出す。ルイスは何か特別なことを私に話したかったに違いない。言葉では表現できない何か特別なことを。
 それが果たして何であったのかは問題ではない。最後に一日を語り合うパートナーとして、ルイスが私を選んでくれた光栄を、私は終生忘れることはないであろう。
「鉄人ルー・テーズ自伝」、ルー・テーズ、流智美・訳、講談社

常に上には上がいることを忘れるな

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2009-6-15 7:39
 「二年間にわたるトラゴスとの修行中、私は数多くの相手とのスパークリングを通じて、自分が日に日に強くなっていることを確信していったが、そんな私の心中を見透かすかのように、トラゴスはいつも私にこう言い聞かせていた。
 『You cannot get too high on yourself because there is always someone just a little bit better waiting down the road.(世の中には、常に上には上がいることを忘れるな)』」
「鉄人ルー・テーズ自伝」、ルー・テーズ、流智美・訳、講談社

彼らがいたから現在の私たちがある

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2009-6-10 22:05
 「プロレスラーの中には、これらの先達をまったく無視し、彼らがプロレスの発展に寄与してきたという事実など歯牙にもかけない者も大勢いるが、私の意見を言わせてもらえば、それは決してしてはならないことである。彼らがいたから現在のプロレスがあり、私たちがこの仕事で食べていられるということを常に忘れてはならない。」
 さすがに、テーズは違う、この謙虚さはどうだろう。

「鉄人ルー・テーズ自伝」、ルー・テーズ、流智美・訳、講談社

世の中に笑うことなど何もない

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2009-6-2 22:30
 トラゴスはレスラーの間で、”アイスウォーター”と呼ばれていた。まず絶対に笑ったことがない。生きることはシリアスそのものであり、世の中に笑うことなど何もない、というのが彼の口癖だった。
 試合は二分もかからずに終った。トラゴスはエドワードに難なくダブる・リストロックを極め、アッという間に(中略)
 哀れなエドワードは即座に病院に運ばれて(中略)三日後には左腕全部を切断する悲劇となったのである。(中略)
「プロレスリングにリスペクト(尊敬)のない子供には、ああするのが最善の治療だ」と冷たく言い切った。トラゴスがプロレス界で”アイスウォーター”と呼ばれている本当の理由を私は初めて実感した。

「鉄人ルー・テーズ自伝」、ルー・テーズ、流智美・訳、講談社

「スネークスキン三味線」を読む

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2009-5-9 15:22
「『たまにしか会わない人たちは、死んでしまっても遠くでまだ生きているような気がする』(中略) 墓石に彫られた父と母の名前も見ていなかった。それを見れば、二人の死んだことが決定的になる。マスは彼らの死を曖昧なままにしておくほうがよかった。」 同じようなことを考えるもんだ。 「スネークスキン三味線」、ナオミ・ヒラハラ著、小学館

コレクターの悩み

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2008-6-21 12:06
「そしてその団塊の世代コレクターが皆困っているのである。あと二十年もすれば目はカスミ、手は震え、で、標本箱の防虫剤を入れ替えるのもままならぬことになる。そしておれが死んだら、こんな、場所塞ぎで、保存のうるさい虫の標本なんか、女房も子供も大事にはしてくれまい―我々にも、家族に迷惑をかけたという自覚はある―というわけで、信用のおける博物館に寄贈しようにも、相手はスペースがない、管理する人手がない、と断ってくるし、打つ手がないままに死にそうなのである。」
「東京美術骨董繁盛記」、奥本大三郎、中央公論新社からの引用
美術骨董商をめぐる間に、思わず著者自身の悩みを吐露している。

「豆腐バカ 世界に挑む」

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2008-5-25 12:59
「豆腐バカ 世界に挑む」、雲田 康夫、光文社 より
 そこでミスター・トーフは”現地社員の叱り方”の新案特許を思いついた。
 まずは大声で、「このバカモンが!」と日本語で第一声。その次はやさしくていねいに英語で本題に入っていく。日本語を解しない現地社員は、この第一声がなんのことやらチンプンカンプン。でも、けっこう迫力はあるし、叱っている雰囲気は相手に伝わる。
 ところが、敵もさる者。本人の都合で退社する段になって、(中略)最後にポツリと言った。「ワタシ、『バカモン』の意味わかるんです。」

「死刑執行人サンソン」を読む

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2008-4-18 13:06
 フランスでは一般庶民が斬首刑になることは絶対になく、斬首刑を受けるのは貴族だけなのだから、高貴な人間なら高貴な人間らしく、覚悟を決めてみずから首を差し出すべきものと考えられていたので、ほかの人間が死刑囚の体を押さえつけるということはしなかった。(中略)
 「このような剣で、首をかならず一撃で落とせると確信できるものでしょうか?」
 「もちろん」とジャンーパチストは笑いながら答えた。「貴人の首を刎ねるときは、私は助手にやらせることは絶対にしませんので、もしあなたがそのような運命の巡り合わせになったときは、けっしてあなたを苦しめることはしません。かならず一撃ですませると、今日からでもお約束しますよ」  (中略)冗談で言ったことが、現実のものとなってしまったのであった。
「死刑執行人サンソン」、集英社、安達正勝、より

「黙って行かせて」を読む

カテゴリ : 
読書
執筆 : 
mgr 2008-4-18 13:04
 「きっと彼女は私をすぐ忘れることだろう。もしかしたら、今晩にも。」
 「お母さん、私たちってなんと悲しい母娘なの。なんという不条理が私たちを結びつけているの。どちらも相手を葬り去ろうとしかしないなんて。」
 50年前に志願してアウシュヴィッツの看守になった母と、残された娘との確執が延々と続く。読んでいて息苦しくなりますな。
 「黙って行かせて」、ヘルガ・シュナイダー、新潮社
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